春よ来い(22) 
 

第527回 心ひとつに

 今年の夏の忘れられない思い出をひとつ。お盆前の11日、地元の人がタケと呼ぶ尾神岳で行われたコンサートの話です。

 パラグライダー練習場で「尾神岳サマーフェスティバル」と銘打って行われたコンサートは今回で3回目。出演したのは歌い手グループ、ラフベリーの2人です。

 コンサートがスタートする前に地元の大潟、柿崎、吉川の太鼓集団、よさこいグループ、吉川踊り隊のみなさんが演奏や踊りを披露してくれました。これが下地になっていましたね。

 コンサートが始まり半分くらい終わった頃だったでしょうか、何とはなしに目をステージからその逆方向へと移した私は、パラグライダー練習場の一番高いところ、てっぺんで数人の人たちが曲に合わせて大きく手を振っていることに気づきました。歌のリズムに合わせて、じつに楽しそうです。そのなかには上越マリオ団のマリオの赤い服が見えました。あとは吉川区の太鼓集団、「鼓舞衆」のメンバーらしき男性も2人ほど確認できました。

 ステージからこのてっぺんまで150bくらいあります。そんなに遠いところで彼らが盛んに手を振っている。この様子をみたら、私もステージ前の観客席から離れて、てっぺんへ行ってみたくなりました。てっぺんからステージを見る風景はどんなだろうかという思いもありましたが、何よりも、そんな遠くにいてもステージの歌い手さんたちと心を一つにできる、それを確かめたかったのです。

 歩きはじめてから、ふと右脇をみると、1人のお母さんと2人の子どもさんもてっぺんに向かって歩き始めています。さらに、その後ろにはマリオ団のワリオも大きな体をゆっくり動かして歩いているじゃありませんか。みんな同じ気持ちだったんですね。うれしくなりました。

 しばらく歩いたところで、黄色の羽を広げて、目の前の芝の上を飛んでいくバッタと出合いました。殿様バッタです。体長は5〜6aはあります。私は、デジカメを取り出し、バッタが羽を広げて飛ぶ姿を撮ろうとしましたが、いい写真にはなりませんでした。バッタも曲に合わせて飛び回っていたのでしょうか。

 さて、パラグライダー練習場のてっぺんです。ここにたどり着いて、日本海側を見ると、直江津の居多ヶ浜がよく見えました。眺めがとてもいい。ステージ上のラブベリーもステージ前の聴衆も小さくなって見えました。ステージ近くにある「みはらし荘」の階段のところにも何人かの姿が見えます。みんな、楽しんでいるんですね。

 てっぺんにいる仲間たちと一緒に手を振りながらしばらくステージを見つめました。これだけ離れていれば音が届かないことがあるかも知れない、そう思っていたのは私の間違いでした。音は小さくはなっても、しっかり聴こえたのです。

 ラフベリーの歌を聴きながら、てっぺんでは足を上げたり下げたりしてリズムに合わせている人がいました。団扇をあおぎながらじっと聴いている人もいます。それどころか、芝生の坂を転がる人もいました。まさに喜び満開という感じでしたね。

 この日、コンサート会場に集まった人のなかには尾神と深いかかわりのある人が何人もいました。上越マリオ団のマリオもワリオも、もちろん私も。ラフベリーが最後の方で歌った母さんへの歌、「アナタがくれた温もり感じているから 今日もまた優しくなれる……」。歌を聴いていて、「ああ、タケに来ていかった」と思いました。
  (2018年10月14日)

 
 

第526回 いいこといくつも

 予定変更がいいことにつながることもあるんですね。先日、楽しみにしていた地元の酒まつりが台風の影響で中止となり、急きょ、介護老人保健施設・保倉の里まつりに参加することにしました。

 参加することにしたのは、もう2年くらい会っていない親戚のT子さんの顔を見に行きたいと思っていたからです。

 まつりは午後1時から。1時15分前頃、受付を通って2階に上がると、大平のTさんなどと会いました。廊下からホールまですごい混みようです。

 ホールの方に向かって歩き始めたときでした。「あらまあ」といった表情で私に声をかけてくださった女性がいました。大きな目を見て、すぐにSさんだとわかりました。私が尾神に住んでいたときに私の頭を刈ってくださった人だからです。

 Sさんと話し始めて1分も経たないうちに、ステッキカーを押して、ニコニコしながら私のそばにきた人がいました。母と同郷の「ハヤシ」(屋号)のお母さんです。私の手を握ると、「エツさん、達者かい」。私は、「はい、お陰さんで達者だでね。悪いときもあるでも」と答えました。そして、かつては読んでもらっていた私のレポートを1枚渡すと、「ハヤシ」のお母さんは大喜びしてくださいました。

「ハヤシ」のお母さんとひとしきり話した後、Sさんと再び話をしました。

 Sさんの亡くなったお連れ合いが仕事をしておられた石谷の畑付近で先日、人の姿を見かけ、お父さんかと思ったという話をした後、「ところで、おまんた親類の町田のお母さん元気かいね」と言うと、「ここにいるがね」と言われてびっくりしました。なんと、なんとSさんの隣の席で話をじっと聴いていた女性が町田のお母さん、Fさんだったのです。ほっぺたのまわりが少しふくらんでいたものですから、私は山直海のTさんだと勘違いしていました。

 そうこうしているうちに、今度は私のことを知っている職員さんが親戚のT子さんを私のところまで連れてきてくださいました。事前連絡なしで訪問したこともあって、T子さんも喜び、声を弾ませて、「おばあちゃん、元気かね。おばあちゃんに会いたい」と言いました。

 午後2時半過ぎからは長寿の祝いの表彰式です。高橋先生が111歳のWさんなどの対象者に次々と賞状を渡されました。そのなかにはヨネさん、シゲコさん、ワスケさん、T子さんなどの姿がありました。みなさん、顔の色つやがよかったですね。

 表彰式、そして地元の小中学校のみなさんの演奏、ダンスなどの様子を写真に収めていたところ、私のすぐ隣にいた男性から挨拶されました。赤沢のIさんです。

 見ると、すぐそばには私の父と同い年のキヨノさんがおられるじゃありませんか。たしか91歳、10年くらい前までは毎週のように私とおしゃべりをしていた間柄です。このお母さんも私のレポートをよく読んでいてくださり、口癖のように「いつもいろいろ教えてくんなってありがとね」と言ってくださったものです。

 キヨノさんは私のことがわかったようで、私に何かを伝えようと必死でした。口元まで耳を寄せると、やっと聴きとれる声で、「教えてください。おたのもうします」。私は涙が出そうになりました。

 この日は思いがけなく再会した人が何人もいました。T子さんだったでしょうか、「きょうは、いいこと1つふえた」と言われましたが、私の場合、いいことがいくつもふえました。 
  (2018年10月7日)

 
 
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