春よ来い(21)
 

第502回 足を鍛えて

 冬の間、柏崎市内の老健施設でお世話になっていた義母が自宅生活に戻りました。といっても、しばらくは義姉夫婦の住んでいるアパート暮らしですが……。

 先日、信越線安田駅の近くにあるアパートを訪ねてきました。「ごめんくださーい」と声をかけて、義母の部屋に入っていくと、義母は部屋の入り口付近で、座イスに座っていました。ほんの2、3か月会っていないだけなのに、義母の頬はだいぶやせ、なんとなく老けて見えました。

 何でこんなふうに見えるのだろうと考えたとき、最初に目に入ったのは髪です。義母は髪を短くカットしてもらったばかりだったのです。義母によると、ステッキカーにつかまりながらも一人でN子美容室まで歩き、カットしてもらってきたとのことでした。

 アパートから美容室までは300b弱です。足腰が弱りつつある93歳の義母が、自力でこんなにも歩くとはびっくりでした。それも交通量の多い国道252号線を横断したのです。よく渡ったものだと思いました。

 美容室にとって義母は昔からのなじみの客だったのでしょうか、義母はお金も持たずに行き、髪をショートカットしてもらい、頭を洗ってもらったそうです。代金2700円は義姉から持っていってもらったようです。

 義母とは老健施設で会って以来の再会でした。「施設での暮らしはどうだったね」と訊こうと思っていたら、こちらの気持ちが通じたのか、義母から語り始めました。「施設はご飯がいいね。それにおやつが楽しみだ。ただ、決まりが細かすぎるのがどうかと思うけど…」そう言って、施設内で「歩きまわる」などの運動が自分の考えているようにはできなかったことを教えてくれました。

 運動が思うようにいかなかった分を取り戻そうと、アパートに行ってからの義母はとても頑張っています。

 ステッキカーにつかまっての散歩は1日に4回もやっているといいます。アパートからすぐ近くの安田駅まで行き、郵便ポストをぐるっと回って帰ってくるだけですから、距離的にはそうたいしたことはないのですが、それでも1回当たり、1700歩前後も歩くそうです。

 それに、部屋に置いてある健康器具の「ペダルこぎ」もやっています。私たちが訪問したときも、話の途中からペダルこぎを始めました。たいがい1回当たり15分ほどぐるぐると回します。これを1日に数回やっているとのことでした。

 この日は義母が長年住んでいた自分の家で、「しだれ桜を楽しむ会」が計画されていました。お昼前に義母の家へと車を走らせました。義母が私の車から降りるときの体の動き、自宅前の坂道を歩く時の姿勢は、まだまだ達者という感じでしたね。

 お目当てのしだれ桜は、義兄の長女が生まれた翌年に植えた木です。空は薄青く、薄い雲が流れている。近くの田んぼではトラクターの音が賑やかで、カエルもそれに負けじと鳴いている。そんななか、樹齢約40年のしだれ桜はちょうど満開でした。

 会では、義兄夫婦などが用意してくれたコゴミの胡麻和え、シイタケの煮つけ、寿司などを食べながら、話がはずみました。「桜のそばにあるモミジ、ビールを飲んだわけではないのにずっと赤くなっている」「近くの道を走るカモシカ姉さんのランニングコースがわかった」など楽しい話ばかりでした。

 義母は義姉やその連れ合いなどとともに食べ、「きょうは、なんたら腹すくのい」と言っていました。3人の子どもがそろっただけで食が進むのでしょう。それと、「ペダルこぎ」が良かったのかも。いいやんべです。 
  (2018年4月22日)

 


第501回 コシノコバイモ

 ここ二週間ほど、探し続けている野の花があります。その名はコシノコバイモ。ユリ科の多年草で、4月から5月にかけて白っぽい花を咲かせます。

 私が初めてコシノコバイモに出合ったのは、10年ほど前です。わが家から直線で1キロほど離れた里山の斜面で偶然見つけたのです。ちょうどキクザキイチゲが花時を迎えていた頃でした。下向きに咲いている花は、何となくさびしそうで、それでいながら美しい。私は一目惚れしてしまいました。

 野の花の美しさにふれると、面白いもので、「もう一度あいたい」と思うようになります。コシノコバイモも例外ではありませんでした。私は翌年も同じ場所へ行きました。もちろん、見つけたときと同じ時期を選び、最初に出合った場所の周辺を探しました。しかし、その年も、さらにその翌年も見つけることができませんでした。

 コシノコバイモと再び出合ったのはそれから数年後です。2度目の出合いは思わぬ形で実現しました。吉川区山方のYさん宅を訪ねたときでした。玄関ドアの外の植木鉢を見た時、私は目を疑いました。縦15a、横20aほどの小さな鉢の中に、十数本のコシノコバイモが整然と並び、見事な花を咲かせていたのです。葉も花も全体の雰囲気も、私が初めて見たものとまったく同じでした。

 そこの家の人に聞くと、近くの里山で見つけたコシノコバイモの種をまいて、育てたということでした。インターネットで調べた時に、私は、コシノコバイモという野の花は数が極めて少なくなってきているということを確認していました。それだけに、種の段階から栽培してふやせることを知り、跳びはねたくなる思いでした。

 Yさんのお宅で再び出合い、私の気持ちにも区切りがついたのでしょう。その後、わざわざ里山に入ってコシノコバイモを探すことはなくなりました。また、山に入って野の花の写真を撮ったり、山菜採りをしても、コシノコバイモと再び出合うことはありませんでした。

 それが先日、安塚区のAさんに会ったことを契機に、無性にコシノコバイモにあいたくなりました。Aさんは、今年、近くの山でコシノコバイモを見たと教えてくださったのです。「山でコシノコバイモを見た」、その言葉は、自然の中で「もう一度あいたい」という私の思いを再び呼び戻しました。

 まず出かけたのは吉川区のYさんが種を取ったと思われる里山です。約1時間、山の中を歩き回りました。目指すは、カタクリとキクザキイチゲの群生地です。山のどこへ行ってもショウジョウバカマがいっぱいありました。ときどきトキワイカリソウ、スミレ、オオイワカガミの咲き始めたばかりのものと出合ったものの、カタクリなどの群生地はなく、コシノコバイモらしい花の姿はどこにもありませんでした。

 数日後、今度は安塚区にある山に登ってみました。こちらも1時間ほど歩きまわったでしょうか。吉川で登った山と違い、カタクリやキクザキイチゲの群生地が何か所もありました。チョウが舞い、ショウジョウバカマ、ミチノクエンゴサク、スミレなどたくさんの野の花と出合いました。それはそれで大いに楽しむことができたのですが、ここでもコシノコバイモの花を見つけることができませんでした。

 コシノコバイモの花言葉は、「母の優しさ」。見つけることが困難であればあるほど花への思いは募ります。今年は花が早く、ここ1週間ほどが最後のチャンスかも。10年ほど前に初めて出合った場所へもう一度出かけてみようと思います。今度こそあいたい。
  (2018年4月15日)

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