手のひらにのるほど小さな歌集だから「てのひら歌集」。市内在住の柳川月さんから東日本大震災のことを詠んだ「てのひら歌集9 震災詠」を送っていただきました。
歌集に掲載されている歌は全部で41首。地震発生時の「目まいほどの揺らぎなりしが時すでに東日本を大地震おそう」からはじまり、この2か月のあいだに月さんが見聞きしたことを時系列で追うことができるように歌が並んでいます。「地震津波に追討ちかける放射能目に見えざれば恐怖底なし」「子を妻を夫を探しゆく人の瓦礫踏む足さぞ痛からん」。
大津波や原発のことなどを被災者の気持ちに寄り添いながら、言葉を選んで詠んだ歌のなかには様々なドラマもあります。友人の安否を知りたくて手紙を書く月さんの思いは、「安否なお分からぬ人への片便りきょうも書きおりいつか届かむ」という歌に。その相手から2か月近くになって返信がありました。「二ヶ月になりなんとして思いがけなくも届き来無事知らす文」。うれしかったでしょうね。
牛飼いだった私にとって切なかったのはテレビ画面に登場した牛たちの姿でした。「原発を逃れてゆくか河原を数頭の牛が走りてゆけり」。月さんの目にも牛たちの姿が気になる存在として写ったのですね。
歌集の最後に月さんの「あとがき」がありました。「未曽有といわれた3月11日の大地震、大津波、加えて放射能飛散という大災害は、被災された方はもちろん、直接被害に遭わなかった私達にとっても忘れ難く、そして忘れてはならない事です。この事実を記録しておくことは、短歌という表現方法を持つ者としての責務と考え、この小さな歌集に思いを込めました」。多くの人に読んでもらいたいと思います。