一家の中で一人でなく二人が同時に亡くなり、その葬儀の取り持ちをするというのは初めてです。きょうは井戸尻(屋号)の父ちゃんと母ちゃんの納棺、通夜でした。忌中札を二つ立てる、焼香台の上に遺影を二つ並べる。もちろん、位牌も二つ、棺も二つです。一人だけでも悲しいのに、二人分のものを用意して儀式を進めるというのは悲しみを何倍にもします。その悲しみが最高潮に達したのは湯灌、納棺の時でした。
まず湯灌。沐浴人(もくよくにん)に参列者の一人ひとりがアルコール液を含んだガーゼを渡し、母ちゃんの体を清めてもらいました。一巡りしたら、今度は父ちゃんの方です。父ちゃんのところを一巡りしてもガーゼが残りました。参列者は残ったガーゼで直接、二人の顔、手、足をふくことになりました。「父ちゃん、こんなに指が太かったんだ。ご苦労さんだったね」「母ちゃん、さみしいだろね。また会おうね」みんなが声をかけます。私は二人の足をふきました。父ちゃんの足を見たら、手術の痕が残っています。「また百姓しねかならんすけ」そう言って病院でリハビリをしていたことが思い出され、涙が流れました。
続いて旅支度と納棺。この頃から、外は雨になりました。手甲(てっこう)、脚絆(きゃはん)などを着け、足袋を履かせます。これも母ちゃんから。次いで棺を用意し、遺体をみんなで支えながら仰向けにして棺の中に納めました。棺の中には杖も入れました。それから花です。葬儀屋さんの方であらかじめ用意してくださった花ビラ、参列者はまず二個ずつもらい、一個は母ちゃん、もう一個は父ちゃんの顔の周りに入れました。花は悲しみを深めます。父ちゃんの姉にあたる人が泣き始めてから、遺体が安置してある小さな部屋はすすり泣く声でいっぱいになりました。
棺の中への花入れは今回、親族だけでなく、尾神や坪野地区の住民の方々にも参加してもらいました。地区住民のみなさん方も花入れでは、「まあ、まるで眠っていなるようだね」「いい顔してなる」「世話になったね。ゆっくり休んでくんないや」などと声をかけてくださいました。この時、外の雨はトタン屋根をたたくような大粒の雨となりました。花ビラを持った人たちが何人も言いました。「こりゃ、涙雨だ。父ちゃん、母ちゃんが死んでみんな泣いている」と。この久しぶりの雨、後でわかったことですが、吉川区でも山間部だけに降ったのでした。