東頸城郡松代町へ行ってきました。十日町市、松之山町、松代町津南町など6市町村の地域を越後妻有郷(えちごつまりごう)といいますが、そこを舞台にして第2回大地の芸術祭が開かれていて、松代町で展示されている作品を見に出かけたのです。
3年前の前回は妻と一緒に松代町の会場を訪れ、松代町商店街にあった作品群が気に入りました。説明をしてくれた地元の人との会話の楽しさも忘れられず、今回の祭りでも商店街を訪ねることにしました。
ただ、今回は、友人のバリさんと2人で出かけたことから、3年前とは一味違った鑑賞となりました。バリさんは、昨年暮れに小脳からの出血で倒れ、病院に数ヶ月入院。現在は通院、リハビリの毎日を送っています。
先日、バリさんの奥さんに「今度、バリさんを連れて一緒に『大地の芸術祭』に行ってこようと思うんだけど、どうだろう」と言ったら、「助かるわ、連れてって」ということになりました。きょうは、幸い、午前に雨が上がったので、午後から軽トラックに乗って出かけてきました。
ほくほく線まつだい駅に着いたのが午後1時ちょっと前。そこから歩いて商店街に展示されている作品を見て回ることにしました。バリさんは軽トラに積んできた最新式の歩行器を使って歩きます。段差がない所を目でさがしながら、ゆっくり、ゆっくりと。
「新しい病院は、俺みたいなもんのことを考え、段差はないね。それに平らだしさ」。バリさんは歩き始めてすぐそう言いました。一緒に歩いてみて、初めてわかったのですが、足に障害のある人が歩くってたいへんなことなんですね。車が来ないか。前に障害物がないか。道は上っているか、それとも下りか。平らか、それとも斜めか。こういったことを総合的に判断し、前に進まなければならないのです。
幸い、商店街は車の通りも少なく、作品鑑賞するには好条件でした。それに3年前とは違って、道路の端の部分に1メートルほどの幅でレンガ色の細かい材料で舗装された道が用意されていました。
興味深く鑑賞したのは、吉川中学校で美術教師をしたことのある前山忠さんの「視界」、土壁のやわらかさと温かさを生かした村木薫さんの「修景プロジェクト」、外米輸入を皮肉った「アメリカ米万歳」、大阪教育大学・星ゼミの「饒舌な金物店」。やはり、知っている人の作品や日常生活に密着している作品は身近に感じるし、親しみが持てます。
バリさんは、思った以上に元気でした。ある民家の庭先にたくさんの花が咲いていたので、「これ、マツバボタンだったっけ」と聞いたら、「こういう時には人に聞くにかぎる」と言って、そばを歩いていた若い女性たちに、「ねえ、これ、マツバボタンだよね」。また、雪の写真を展示してあるお店では、「雪肌」という素敵な写真が気に入り、「これって、どう見ても女の人のお尻に見えるなあ」と言って笑います。病気を出す前とまるっきり同じでした。
ある小間物屋さんの前のベンチに座って休んでいたら、お店の奥さんが「あんたがた、どこからきなさったね」と声をかけてきました。「吉川町からです」と言うと、「吉川なら知っている人がいる」と話がどんどんすすみました。その人が知っている人の名は、E子さん。私たちもよく知っている人で、話が弾みました。E子さんは子どもの時から頭がいかったという話から始まって、今晩予定されている民謡流し、明日の祭り、カラオケの話など楽しくおしゃべりしました。
3年前の時には、80歳近い女性が気品あふれる態度で作品解説をしてくださり、感動した記憶があります。今回は、小間物屋さんの奥さんから松代の商店街の面白さを教えていただいたような気がします。とにかく、自分の住んでいる町に誇りを持っている、それがとても印象に残りました。
バリさんは、いつも隣の集落まで歩く練習をしているそうです。この日は、たっぷり2時間、作品を観たり、おしゃべりをしたりして歩き回りました。商店街の端の方へ行った時、「ここで待ってるかい、車持ってくるし」と言ったら、「いや、駅まで俺も歩く」。とうとう全部を歩ききりました。
バリさん、がんばったね。